第46期

山本紘子さん

米国 ハーバード・ロースクール法務博士(JD)課程
(東京大学法学部私法コース)
2015年8月~2017年8月

私は2015年8月より村田海外留学奨学会の援助を受け、ハーバード・ロースクールに法務博士(JD)課程の学生として滞在しています。JD課程は、日本の法科大学院に匹敵する課程で、学士号取得後、3年間かけて、日本の六法に相当する米国法の基本科目、国際法・比較法・米国法の上級科目等の選択科目、日本の司法修習の一部に匹敵するような実務知識・訓練、さらに、リサーチ及びライティングの指導を受けます。多くのロースクールでは米国人がJD入学者の95%以上を占め、米国人の“lawyer”は基本的に皆この課程を経ることになります。ただし、近年外国人留学生も増えており、特にハーバードではここ数年外国人留学生がJD生全体の15-17%を占めます。

私が米国のロースクールを志したのは、国境を越えた私人間の紛争解決に携わるべく、日本で学んだ大陸法の対称であるコモンローや国際法の学びを進め、英語での弁論術を身に着け、各国から集った学生と切磋琢磨したいと思ったからです。そのため、一年目は米国法実定法(契約法、民事訴訟法、憲法等)の学習に集中し、二年目・三年目は米国法の上級科目と国際公法・私法・国際仲裁法を学ぶことに重点を置きました。

学年全体がほとんど同じ科目を履修し、成績やインターン先法律事務所を競い合うJD課程一年目は、特に厳しい雰囲気が漂います。毎日課される判例法原文の数々やハーバード・ロースクールで始まった、教師が学生を次々と指名し、問いを投げかける双方向授業形式である「ソクラテスメソッド」、多様な社会経験を経たクラスメイト、多くの法律リサーチの課題に圧倒され、日々をこなすのに精一杯の一年でした。当時は自分が学んでいることを客観的に考える余裕がなく、米国法の具体的な規則を理解することにあくせくしていました。しかし、後から振り返ると、その経験は、米国法の具体的な規則を学ぶのみならず、法律問題に直面した際に問うべき質問や批判的分析の手順を内在化させること、つまり、判例法の類推や批判をもとに法を明らかにする広義な米国法・コモンローを学ぶ重要な導入課程であったことに気づきました。

二年目、三年目は選択科目や課外活動に打ち込むことができ、一年目とはまた異なる経験となりました。米国では法学雑誌は学生が運営しますが、その一環としての国際法学雑誌での論文選出や、授業の一環のゼミなどを通して、各国出身の学生から得た比較法的観点はとても貴重なものでした。また、実務家と学生との距離も近く、国際紛争解決である国際仲裁の分野で活躍する仲裁人や弁護士を世界中から招き、9回のワークショップを企画・運営する機会に恵まれたのも幸運でした。さらに、数か月にわたる訴訟・仲裁関連の臨床教育やインターンを通し、今まで学んできた法が如何に実務に反映されるかを学ぶ機会にも恵まれました。

まだ卒業まで半年ほどありますが、二年半の留学生活を振り返って感じたことは、留学中の道を単線的に考えるのではなく、複線的に考えることの重要性です。留学前に切望していた機会が得られないこともあれば、当時は思いもよらなかったような機会が浮上することもあります。言うは易く行うは難しですが、長期的目標は明確に、短期的には一喜一憂せずに前向きに学び続けることの必要性が身に沁みました。

村田海外留学奨学会の皆様には、あらゆる側面より手厚くご支援いただき、感謝の念に堪えません。学費のみならず、生活費、専門書代、機材代などまでご支援いただき、経済面の心配から救われ、大変恵まれていたことを噛み締めています。また、奨学会の皆様より頂いた温かいお便りに見守られているようで、とても心強く感じました。そして、日本に帰国した際には大変温かく迎えていただき、激励のお言葉をかけてくださったことも心に残っています。今後とも村田海外留学奨学会の素晴らしいサポートを得て、多くの日本の方々が新しい環境に挑み、多くの刺激を受け、世界中の研究者の方々と切磋琢磨する機会を得られることを願っております