第48期

土井ゆりかさん

米国 ハーバード大学
(東京大学 工学部 機械情報工学科 4年)
2017年9月~2019年8月

私は、2017年9月からハーバード大学メディカルスクール神経科学博士課程に留学し、動物が適応的に行動する仕組みを特に脳(ソフトウェア)と身体(ハードウェア)の両方面から研究しています。

私が大学院進学にあたって、ハーバード大学を選んだのは、1年生のときに研究室配属を決める前にいくつかの研究室を回って違うプロジェクトに参加できる研究室ローテーションという制度があったことと、自分の興味のある研究分野が学際的なので、コラボレーションが盛んで、なおかつ各分野の一流研究者がひとところに集結しているボストンという町に惹かれたからです。

1年目の研究室ローテーションでは、4つの異なる研究室を回りました。一つ目の研究室(Andermann Lab)では、ホメオスタシス(身体の内部環境を一定に保つ仕組み)と脳活動について研究しました。二つ目(Ginty-Harvey Lab)の研究室では、触覚システムを用いて、異なる種類の末梢神経で受容された触覚に関する信号が、大脳皮質でどのように表現されているのかについて、遺伝子改変マウスを用いて研究しました。三つ目の研究室(Olveczky Lab)では、モーションキャプチャーによる動物の体の各関節の位置の推定について研究しました。所属が決まった四つ目の研究室(Uchida lab)では、動物の食糧探し戦略における意思決定と自発的な行動のタイミングを決める仕組みについて研究しました。

また、大学院の一年目の授業では、神経科学の基礎について、遺伝学、分子生物学といったマクロな視点から、神経回路レベル、行動科学、さらには臨床への応用研究に至るまで、幅広く、各方面の専門の教授から直接学ぶことができました。私は、学部時代は工学部で機械工学を専攻していたので、生物学の知識で後れを取ることが多く、苦労しました。苦労していることを学科に伝えると、学科がチューターを雇ってくれて、マンツーマンで週に3-4時間ほど授業内容の復習をしてもらいました。また、授業で積極的に質問することを心掛け、私の質問にとことん付き合ってくれる先生とクラスメイトのおかげで、たくさんの新しい知識を体系立てて修得し、無事に単位も取得できました。困っていても、助けを求めつづけていればなんとかなる、という経験ができたのはとても有意義でした。

今年からは、ローテーションを終え、文献調査等をした後に自分自身の研究プロジェクトを始めました。動物の姿勢制御を神経科学的視点とバイオメカニクス的視点を用いて、紐解くという課題を設定し、現在実験に取り組んでいるところです。姿勢制御は、伝統的には脳幹や脊髄などの反射的な回路の組み合わせで考えられてきましたが、大脳皮質からの予測的な制御や、高次な身体図式の脳内表現も関わっているという仮説を立て、侵襲的な神経計測と遺伝学的な操作が可能なマウスを用いて実験しています。さらに動画での運動解析や筋計測にも取り組んでいく予定です。より安定した動きのできるロボットへの応用と高校生のころから長い間興味を持っている身体意識の解明にもつながる可能性があると感じていて、毎日ワクワクしながら研究に取り組んでいます。

研究設備に関しても、実験室が私専用に一部屋与えられ、必要なものはすべてそろえることができ、とても恵まれていると感じています。いままで、先例がない実験のため、実験装置から手作りしていますが、装置のデザイン、金属の加工、電気回路、マイクロコンピュータのプログラミングなど、学部(工学部機械情報工学科)時代に得た専門知識を活かすことができています。動物の実験というと生物学の領域という気がしますが、実験装置の組み立てに関しては、実際に一つ一つの課題は計測工学、制御工学の問題を解いていることに等しいという気づきが得られたこともよかったと思っています。

研究と授業のほかには、日本人研究者交流会などの、異分野の日本人研究者が集まる場によく顔を出しています。ボストンは大学、研究機関、病院、ベンチャー企業が密集しているため、研究、留学、仕事に来る日本人が多く、またネットワーキングも活発です。幅広く、最先端の研究について、第一線で活躍している方々の話を聞くことができて、知的刺激を大いに受けています。加えて、科学界、またさらに現代社会という大きな枠組みにおいて、自分の行っている研究がどのような意義を持ちうるのか、また、それがどのような社会貢献につながるのかを考えるよい機会になっています。

最後になりましたが、 留学を支援していただいた村田海外留学奨学会にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。 授業料、生活費から教材費にいたるまで、手厚く支援いただき、 自分の研究したいことを目一杯することができて、本当に感謝しています。学会やサマースクールなど、研究室外での学びの場に積極的に参加できたのも、ご支援のおかげです。また、事務局の方から折に触れ、お気遣いの連絡をいただき、 励みになりました。今後とも、貴奨学会のサポートを受けて、留学に挑戦する仲間が増えていくことを願っております。